CASEとは、近年の自動車業界で注目を集めている新しい概念です。CASEの概要やCASEの普及が進んでいく今後の自動車業界に必要とされる人材について解説します。
CASEとは?これからの自動車産業に必要な人材について解説
CASEとは、近年の自動車業界で注目を集めている新しい概念で、従来の自動車に対する捉え方を大きく変えるとされています。
CASEとはいったい、どのようなものなのでしょうか。CASEの普及が進んでいく今後の自動車業界に必要とされる人材についても解説します。
これからの自動車に求められるCASEという概念
CASE
最初にこの言葉が使われたのは、2016年にフランスで開催されたパリ・モーターショーにおいてでした。当時のダイムラーAGのCEO兼メルセデス・ベンツ会長であったディエター・チェッチェ氏が、変革期にある自動車業界の中長期戦略として発表したのです。
18世紀にフランスで誕生したといわれる自動車は、これまで長い時間をかけて技術開発を繰り返し、進化してきました。その間、「走る・曲がる・止まる」という基本性能と「人や物を安全確実に、快適に運ぶ」という機能性が追求され、現在では非常に高いレベルにまで達しています。一方で、環境への配慮やITを中心とした新技術の応用など、自動車に求められる機能や特性が増えつつあります。
これらの要素を4つに整理し、次世代の自動車が備えるべきものとして提唱したのが、このCASEなのです。
CASEが意味する4つの要素
CASEとは、これからの自動車に求められる要素を4つの単語で表現したものです。それぞれの単語がどのような意味を持つのかご説明します。
Connected:他者とつながり、連結する
「C」はConnectedからきており、これは「つながり」や「接続」を指す言葉です。Connectedは主に通信の世界で使われる用語ですが、これを自動車にあてはめた概念となります。
高速通信回線の発達は、インターネットを実に快適なものに進化させました。大容量のデータを瞬時に送受信できる環境が整ったことで、身の回りのあらゆる物がインターネットにつながる仕組みである「モノのインターネット」が普及し、多種多様なソフトウェアがクラウドサービスとして提供されています。また、離れて暮らす高齢の親の様子をモニターしたり、外出先から自宅の家電をコントロールしたりと、「つながる」ことを軸に、多くのサービスが登場しています。
自動車の場合であれば、路面状況や交通状況を各部のセンサーやインターネットから情報として取得し、快適で安全な走行を実勉したり、渋滞を避けたナビゲーションを提供したりすることが可能です。
Autonomous:自動車が自律的に判断し、走行できる
「A」はAutonomousからきており、これは「自律走行」を意味しています。自動運転あるいは無人運転と呼ばれる概念と同じものです。
自動車は、運転者自身が状況を判断し、的確に操縦することで、安全で確実な走行ができます。ですが、運転中は常に緊張をしいられることになりますし、それが長時間に及べば心身のストレスにもつながります。それによって判断ミスや操作ミスを起こせば、大きな事故にもなりかねません。判断力や反応速度が衰え始めた高齢者の方や障害者の方にとっては、自動車の運転そのものがハードルの高いものになってしまいます。
しかしながら、人間と同等以上の自律走行が可能になれば、どんな人でも自動車を気軽に利用できるようになります。そのような発想から、今後は今以上に安全で快適な自動車が登場するでしょう。
Shared:共有によって実現する、環境負荷の軽減
「S」はSharedからきており、これは「共有する」という意味の言葉です。自動車をシェアすると聞くと、近年になって普及が進んでいる「カーシェアリング」を思い浮かべる人が多いかもしれません。確かにそれもシェアのひとつですが、CASEでいうシェアリングとは「ライドシェアリング」、つまり自動車の相乗りを指します。
通勤や営業回りなどで、どうしても自動車が必要という人は数多くいます。しかし、一人ひとりが1台ずつの車を使っていたら、道路渋滞や大気汚染、化石燃料の過剰な消費といった、多くの環境負荷を生み出してしまうでしょう。ライドシェアリングを導入できれば、そうした負荷を軽減することが可能です。
ライドシェアリングは海外ではいち早く注目され、アメリカや中国などで事業として行われています。日本では許可を得ずにタクシー営業を行う「白タク行為」に該当する場合があるため、海外ほどは盛んではありません。その一方、カーシェアリングは2011年頃から急速な伸びを見せており、レンタカー以上に手軽に自動車を使える手段として、人気を集めています。
Electric:化石燃料から電力への転換
「E」はElectricからきており、この言葉は化石燃料から電力への転換を表しています。化石燃料については、その使いやすさとともに問題点も指摘され続けてきました。「あと何十年かで完全に枯渇する」とかなり前からいわれており、排気ガスによる大気汚染はすでに世界中で社会問題になっています。そのため、法的な規制や自動車業界の努力によって、排気ガスのクリーン化やモーターとのハイブリッド車の開発などが進められてきたのです。
この問題に対するひとつの解決策として大いに期待されているのが、電気自動車です。車載電池の大容量化やモーターの高出力・高効率化などによって、必要充分な走行性能を持つ電気自動車はすでに実用化されており、電力を供給するパワーステーションの整備も進められています。次世代の自動車にとって、電力化は欠くことのできない要素なのです。
CASE
CASEは、単に技術的な進歩を示した言葉ではありません。自動車というものの概念を変える、革新的な意味合いも含んでいます。
これまで、自動車は「移動の手段」でした。人々は移動や運搬のために自動車を購入し、メーカーはそのために自動車を作り、販売してきました。しかし、CASEが想定する次世代の自動車は、物としての自動車を指すだけでなく、「移動というサービスを提供するデバイス」に変化するのです。
ネットゲームやビジネスアプリを提供するクラウドサービスを「SaaS」、つまり「サービスとしてのソフトウェア」と呼びますが、それと同様にサービスとしての移動である「MaaS(Mobility as a Service)」を実現するツールへと自動車は変化していくでしょう。
CASEの実現は、移動・交通の在り方を大きく変える可能性を秘めている
CASEによる変化は、たとえるなら「携帯電話からスマートフォンへ」の変化に近いでしょう。かつての携帯電話がスマートフォンに形を変えたことにより可能になったことがたくさんあるように、従来の自動車ではできなかった、あるいは十分ではなかったことが、より快適かつ便利にできるようになるのです。
CASEによる自動車の進化としては、例えば「目的地を入力すると現在地からのルートをナビゲーションシステムが割り出し、自動運転によって走行できるようになる」ということが挙げられます。これは、周囲の自動車や沿道から情報を得ながら自動制御運転を行うことで、安全に走行できるという仕組みです。万一の事故の際には、位置と状況を自動送信することも可能です。
また、CASEが進むことにより、車内では映画や音楽などの最新のコンテンツをダウンロードして楽しめるようになるほか、インターネット経由でビデオ会議に出席したり仕事を片づけたりできるようになり、移動時間が無駄にならなくなります。
さらには、ハイブリッド車や電気自動車の普及によって環境負荷が軽減できますし、自動車そのものを共同所有することで低コストを実現することができます。
インターネットの普及とスマートフォンの進化によって私たちの仕事や生活のスタイルが大きく変わっていったように、CASEの実現は、移動・交通の在り方を大きく変える可能性を秘めているのです。
CASEの普及による自動車産業への影響は?
CASEが普及し、この概念にもとづく自動車が増えていくことで、自動車産業はどのように変わっていくのでしょうか。ここでは、現時点で予測される将来の自動車業界の姿について、具体的に考えてみましょう。
関連企業の淘汰と統廃合
自動車業界は建設業界とともに、裾野が広い業界といわれます。自動車メーカーの下には、エンジン、車体、電気部品と、数多くの部品メーカーが存在しており、それぞれに開発生産を行っています。これらの部品メーカーには、さらに下請けのメーカーが連なり、自動車産業全体を構成しています。つまり、自動車産業は、自動車メーカーを頂点とした、ピラミッド型の構造を持っているのです。
しかし、将来の自動車が完全にCASEに移行すると、このピラミッド型が大きく崩れます。電気自動車にエンジンは不要ですし、排気管もいりません。代わりに大容量のバッテリーや、高性能のモーターが不可欠です。つまり、求められるパーツが、従来の自動車とはまったく変わってしまうのです。
下請けメーカーは、こうした「要求の変化」に対応しなければ存続できません。そのため、部品メーカーの淘汰や統廃合が進んでいくと思われます。
生産台数の減少
カーシェア、ライドシェアが浸透すると、市場に必要な自動車の台数がそれだけ少なくなります。ユーザーからすれば、シェアによって低コストで自動車を利用できるのですから、そのほうが良いのは当然でしょう。しかし、メーカーやディーラーにとって、これは大きな収益の減少につながります。
購買層の減少も、生産台数の減少に影響する要素です。世界的に見ると人口は年々増加していますが、一部の国では少子化が進んでおり、すでに先進諸国共通の課題にもなっています。つまり、市場全体のパイの大きさが、小さくなっていくというわけです。
コストの減少、車両の販売価格の低下
ライドシェアが一般化し、低コストで自動車を利用できる環境が整備されれば、高いお金を払って自動車を買おうとする人は減っていくでしょう。数年前からいわれ続けている「若者の車離れ」も影響して、メーカーはさらなるコスト削減を求められ、車両販売価格の低下、収益の縮小が予測されます。
ですが、新時代の自動車が登場し、その便利さ、快適さが周知されれば、自動車の魅力を再認識する人が増えるでしょう。また、CASEによって自動車の持つ可能性が広がることで、購買層の拡大も見込めるかもしれません。
経営方針の転換
CASEへの移行は、自動車メーカーの経営方針に、大きな転換を迫るものでもあります。
これまで自動車メーカーは、製造業として存続してきました。しかし、CASEへと移行することで、メーカーは自動車という物を作るだけではなく、さまざまな情報を通じて人や物の移動を提供する、つまり「モビリティサービス」を提供するサービス業の側面が強くなります。このことは、下請けの部品メーカーをはじめとする関連企業にも、大きな影響を与えるはずです。
企業の役割が変化すれば、求められる人材も変わります。ですから、今後の自動車業界では、これまでとは違ったスキルや経歴を持った人材が必要とされるでしょう。
これからの自動車業界に必要な人材とは?
ほかの多くの業界と同様、自動車メーカーにも多くの部門があり、それぞれ専門性を持ったスタッフが求められます。その中でも中心となるのは、企画、開発、設計といった、製造全般の領域です。これらの部門では、どのような人材が求められるでしょうか。
従来であれば、素材や構造についての知識があり、機械に強く、各種規制や関連法にも詳しい人材がイメージできます。しかし、CASEを前提とすると、必要な人材像はまったく違ったものになります。
なお、自動車産業にはパーツメーカーを含めて、とても多くの関連企業が存在します。どのような人材が必要なのか、正確なところは企業によって違うでしょう。そのため、ここではCASEへの移行を前提に、自動車メーカーへの転職を想定した場合、どのような人材が求められるのかを考えてみます。
IT、IoT分野で育った人材
CASE時代を見据えて自動車メーカーが求めるのは、一言でいえば「これまで自動車業界にはいなかった人材」。もう少し具体的にいえば、IT、IoTに強い、情報系のスキルを持った人材です。例えば、AmazonやGoogleなど、ITの世界で活躍した経験を持つ人材こそ、今後の自動車業界で必要とされるといえます。
Appleによる「アップルカー」が、数年のうちに登場すると報道されたことからもわかるように、CASE時代の自動車はIT企業の主導で行われることになるでしょう。そのときに必要となるのは、まさにIT業界で求められる人材とイコールなのです。
0から1を生み出すことができる人材
本格的なCASE時代の自動車には、現在では思いつかないような役割が与えられます。そんな新時代の自動車を企画し、作り出すためには、企画力や実行力が必要です。
そのため、これからの自動車業界に求められるのは、0から1を生み出すことができる人材といえます。また、何かを作り出す上での周囲を巻き込む力も重要です。
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