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FASとは?仕事内容や必要なスキル、転職市場の動向などを解説

財務系コンサルタントのひとつに、「FAS」と呼ばれる会社があります。FASの概要や仕事内容のほか、必要スキルや資格、FASを出た後のセカンドキャリアについて解説します。

FASとは?仕事内容や必要なスキル、転職市場の動向などを解説

財務系コンサルタントのひとつに「FAS」と呼ばれる会社があります。現在、FASはビジネスシーンで急速にニーズを増しており、財務系のコンサルタントを志望する方にとっても有力な転職先となっています。 ここでは、FASの概要や仕事内容を紹介するとともに、必要とされるスキルや資格、FASを出た後のセカンドキャリアなどについても詳しく解説します。  

FASとは、企業の財務領域に関するサービスを提供する会社のこと

FASはFinancial Advisory Serviceの略で、主に企業の財務領域に関するサービスを提供する会社のことです。 コンサルティングファームには大きく分けて、企業の経営層に対して経営戦略に関するコンサルティングを行う「戦略系」、ITや人事などジャンルを問わずさまざまな領域の課題について総合的にコンサルティングする「総合系」、企業の財務に関するコンサルティングを行う「財務系」の3つの種類があります。   財務系コンサルティングでは、製品ごとの利益や拠点ごとの利益をチェックしたり、部品の利益率を分析したりといった、数字周りのコンサルティングを行います。企業のビジネスが軌道に乗るためには、財務体質が健全である必要があります。その意味で、企業のすべてのビジネスの土台になるのが財務だといえます。 FASは、この財務コンサルティングファームに含まれます。  

FASの仕事内容

FASの仕事内容は、主に「M&Aアドバイザリー」「企業・事業再生」「フォレンジック」の3つが挙げられます。ここでは、それぞれの仕事内容について具体的に見ていきましょう。

M&Aアドバイザリー

最も案件数が多く、需要も高いのがM&Aに関する支援です。M&Aとは、企業が別の企業を買収すること、あるいは買収されることですが、FASは買収する側の企業に対しても、買収される側の企業に対してもコンサルティングを行います。 M&Aに関するコンサルティングというと、「いくらで買うのがいいのか」「いくらで売るのがいいのか」といった金額的なアドバイスだと思われがちですが、FASの担当領域はそこにとどまりません。   例えば、クライアントの事業がどうあるべきかを考え、そのために必要だと判断すればM&Aを提案し、買収後はどのように既存事業とのシナジーを出していくのかというところまでアドバイスを行います。事業の売却に関しても同様に、クライアントの抱える事業に関して、単純に赤字だからというだけでなく、将来性や既存事業との関連も踏まえて売却すべきか、残すべきかを考えてアドバイスを行います。 こうしたM&Aに関する的確な判断は、なかなか自社だけでは難しいものです。だからこそ、M&Aを検討する際に企業は、FASにコンサルティングを依頼するのです。  

企業・事業再生

企業・事業再生は、窮地に陥っている企業の再生、あるいは事業再生を請け負う仕事です。例えば、「来年の3月に赤字になると倒産してしまう」という企業から依頼が来たとしましょう。すると、FASはクライアント先に常駐するなどして、社内や事業の内容を精査し、無駄な事業を売却してコア事業に絞るなどの事業計画を立案します。   また、銀行から資金を借りている場合は、返済スケジュールを調整してもらったり、金利を下げてもらったりといった交渉も行います。もちろん、銀行も無条件では納得してくれないので、そのために練り直した事業計画書を提出して展望を示し、交渉を行うのです。 事業の売却を検討するという点では、M&Aアドバイザリー業務と近い部分もありますが、企業・事業再生においては、もはや一刻の猶予もない状況ですから、よりシビアな視点と迅速な対応が求められます。   企業・事業再生をFASに頼るのは、そうした冷静な外部の視点と専門的な知識が必要になるからです。例えば、現場の社員に「自社の何が課題だと思うか」を尋ねても、明確な答えが返ってくるとは限りません。むしろ、それぞれが曖昧に別の答えを返すことも少なくないのです。FASは、そうした現場の声や現状を一つひとつ分析し、会社の本当の課題がどこにあるのか、どうすればその課題を解決できるのかを考えます。 FASが企業・事業再生を進める一般的な流れとして、まずは役員報酬をカットし、希望退職を募ります。そして、会社にとって無駄な事業を切り離すことで、コア事業や成長事業に会社を注力させるのです。  

フォレンジック

フォレンジックとは、内部統制や監査のことです。上場企業は株主のための会社なので、ただ業績が良ければいいというわけではなく、きちんとしたビジネスができているか、資金の流れやビジネスフローが正しく行えているのかといったことを株主に報告する義務があります。   しかし、近年のビジネスはどんどん高度化しており、資金の流れやビジネスのフローが複雑化しています。あまりにも複雑になったビジネスフローが滞ると、もはや社内では手が出せなくなってしまうことも珍しくありません。 そこで、コンサルティングを行うのが、財務のプロフェッショナルであるFASというわけです。FASは資金の流れやビジネスフローについて調査を行い、もし課題が発見された場合は、どのように解決するのかまで考えます。  

FASの役割は経営戦略の高度化

M&Aアドバイザリー、企業・事業再生、フォレンジックという、FASの3つの仕事に共通して必要とされるのは、「経営戦略の高度化」です。 例えば、とある水産商社を例に挙げましょう。この会社では原材料を輸入して加工し、缶詰などの製品として販売していました。製品数は約500点にも上り、「無駄があるのではないか」「事業を見直したほうがいいのではないか」といった観点からFASに対して依頼が入ったのです。   FASが調査を行ったところ、意外な事実がわかりました。実は、約500点ある製品のうち、上位20種類の製品が会社全体の利益の8割を占めていたのです。これまで、一つひとつの取引についてはきちんと見ていたものの、商品ごとの利益率や缶詰1缶ごとの利益率などは出せていない状況だったため、この事実が明らかになっていなかったのです。   もちろん、だからといっていきなり製品数を絞り込むわけではありません。利益率が低くても、さまざまな事情により会社にとって作り続けるべき製品もあるからです。ですが、中には利益率も低いし、続けても意味がない製品も見つかりました。そうした製品の製造を停止し、利益率が高い製品にリソースを配分することで、水産会社の企業状況は大きく改善したのです。   これはあくまでも一例ですが、このように数字を正確に捉えてアドバイスを行うのがFASの真骨頂といえます。FASはIBD(投資銀行部門)と比較されることもありますが、IBDと違って事業成長を見据えた支援を行うのがFASの特徴であり、強みといえます。  

FAS

FASは、監査法人系FASと独立系ブティック型FASという、2つの種類に分けられます。それぞれどのような業務を行っているのか、詳しく見ていきましょう。  

監査法人系FAS

監査法人系FASとは、主にBIG4と呼ばれる大手コンサルティングファームの子会社として存在しているFASのことです。 具体的には、PwCアドバイザリー合同会社、株式会社KPMG FAS、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社、の4社です。これら、BIG4以外にも監査法人系FASはありますが、それほど数は多くありません。 こうした監査法人系FASは、多くが大手ということもあり、業種を問わず全方位に対してコンサルティングを行っています。  

独立系ブティック型FAS

独立系ブティック型FASとは、特定の領域に強みを持っているFASのことを指します。 例えば、M&Aに強みを持っていたり、企業再生に強みを持っていたりと、高い専門性を備えていることが多いです。また、領域に加えて、中小企業に強いなどの特徴を持ったFASもあります。  

FASのやりがいとは?

FASにおける仕事のやりがいとは、いったいどのような部分があるのでしょうか。ここでは、主な2つのやりがいについてご説明します。  

企業経営の中枢に携わることができる

  クライアント企業の経営の中枢に携われることは、FASの仕事の最も大きなやりがいであるといえます。FASが担う財務領域は、経営の土台になるものであり、いわば会社の健康診断のようなものです。人間の体に潜んでいる病気を見つけるのが健康診断の役割だとするなら、FASはまさに企業の中に潜む課題を見つけ、対処法を考えるのが役割となります。   FASの仕事は、企業の将来に大きな影響を与えます。M&Aで業績を伸ばすのか、それとも落とすことになるのか。企業再生に成功して再び盛り返せるのか、それとも倒産してしまうのか。すべては、FASの働き次第です。 FASの仕事は、企業とそこで働く従業員の未来を担うものであり、成功の喜びとやりがいは何ものにも代えがたいといえるでしょう。  

経営者を相手に仕事をすることができる

経営の中枢に関わるという仕事柄、FASに勤務していると経営者を相手に仕事をすることになります。 若いうちからでも、より経営に近い視点で会話ができるため、自分自身も大きく成長できる環境といえるでしょう。  

FASの転職市場の傾向

現在、FASのニーズは高まり続けています。というのも、多くの業界でビジネス環境の変化がまさに現在進行形で起きているからです。 この現状をもたらした原因として、例えば、後継者不足で事業承継が難しくなったり、コロナ禍で事業継続ができなくなったりして、企業のM&Aが増加していることが挙げられます。前述したように、M&Aは専門性の高い領域であり、FASのコンサルティングなしに成功させることは困難です。つまり今後は、どんな企業もどこかのタイミングでFASに依頼しうるといえるため、FASのニーズはさらに高まっていくことが予想されます。   それに伴って、FASへの採用も盛り上がりを見せています。会計の専門性が活かせるため、公認会計士の転職先としても注目を集めるほか、銀行や証券会社、あるいは事業会社で財務や経営企画に携わっていたような人材であれば、FASは有力な転職先になります。  

FASに向いている人とは?

FASに向いているのは、財務分析能力と想像力の両方を備えている人です。想像力とは、事業についての想像力です。企業を財務の視点で分析する際、利益がどのように生み出されているのか、想像力を働かせて仮説を立てられる人はFASに適性があります。   これは、FASが財務のプロフェッショナルだからこそ必要な資質です。事業構造や利益の仕組みについて、クライアントにいちいち確認し、「全部説明してください」とお願いするのではプロとはいえません。みずから仮説を立てて検証し、経営者の意向をくみ取った的確な提案を行う能力が必要なのです。 また、前述したように、FASは経営者と直接会話しながら経営の中枢に携われる仕事です。大きな責任は伴いますが、非常に早く自身を成長させられます。財務のプロとしてスキルを磨き、キャリアアップしたい人はFASに向いているといえるでしょう。  

FASに必要なスキルと資格

FASに必要なスキルは、やはり財務系の知識や能力です。ですから、FASを目指す場合は財務の仕事に携わり、スキルを身につけておくことが重要です。 例えば、事業会社の財務や銀行、証券会社などで勤務した経験は、強力な武器になります。資格として有効なのは公認会計士ですが、取得難度は高めです。 では、公認会計士の資格を持たず、財務系の仕事に携わっていなかった人はFASを目指せないのかというと、そんなことはありません。ただ、応募した際は財務系のスキルをアピールする必要がありますので、簿記や米国公認会計士といった資格は取得しておきたいところです。 必須ではありませんが、あると有効なのは語学力です。英語力があると、仕事の幅が広がるからです。  

FASのセカンドキャリア

一般的に、FASに勤務するのは30代前半くらいまでであることが多いです。つまり、FASに入るだけでなく、FASを出た後のセカンドキャリアも早めに考えておいたほうが良いといえます。 FASのセカンドキャリアとして一般的なのは、事業会社に転職してCFOを目指したり、財務部門やM&A推進部門等に所属したりするコースです。あるいはファンドに転職して、財務の知識を武器に投資の世界に身を置くのも人気のセカンドキャリアです。もちろん、人によってはそのまま財務系コンサルタントとしての道を突き詰めていくこともあります。 なお、遅くとも35歳までには、将来のキャリアについて考えておくようにしましょう。というのも、事業会社に転職する場合、マネジメント経験を持たないまま40歳を過ぎてしまうと、難しくなるからです。

この記事の監修

信藤 啓吾

シニアコンサルタント


【担当職域】 ・投資銀行 ・PEファンド ・不動産 ・VC ・事業会社 【経歴】 タイグロン パートナーズの前身となるアカマイフィナンシャルマーケッツジャパンの日本支社へ入社前は、約5年間にわたり、ロバート・ウォルターズにて金融マーケット(投資銀行、不動産、PEファンド)を専門としたリクルーティングに従事。産業カウンセラー。英語堪能。 【自己紹介】 投資銀行、不動産ファンド、PEファンドの3つを主な専門領域としています。また、これら3つから派生した、一般事業会社のM&A担当部門や戦略企画、ファンド投資先企業のCFOポジションへの転職もサポートしております。 私の一番の強みは、私が転職支援を行った候補者のほとんどの方が現在も在籍しており継続的に情報交換をしていることです。それによりアップデイトされた企業内部の情報をもっております。また、私の紹介で入社した方が、採用窓口担当者、責任者の場合もございます。加えて、クライアント企業の採用動向や採用目線、面接内容を詳しく把握しているため、面接対策の準備を具体的に手伝える点も強みといえます。 日頃から、個々のニーズに合わせたオーダーメードコンサルティングを心掛けています。今すぐ転職したい方はもちろんのこと、中長期的に情報収集したい方や、「すぐの転職は考えていないけれど一度相談したい」という方も大歓迎です。皆様からのお問い合わせ、心よりお待ちしております。
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