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DTxとは?デジタルセラピューティクスの役割やメリットを解説

予防医療領域に貢献し、医療費の抑制、医療の適性化などに有効なのがDTxです。DTx関連企業への転職を志望する方に向け、DTxの役割やメリットを解説します。

DTxとは?デジタルセラピューティクスの役割やメリットを解説

超高齢社会を迎えた昨今の日本では、医療ニーズが増大しており、国民医療費を圧迫しています。今後、さらに深刻化するであろう高齢化社会で現役世代の負担を軽減するためには、高齢者が社会で役割を持ち続けて生涯現役を目指すとともに、健康寿命を延伸するための予防医療が欠かせません。 予防医療領域に貢献し、医療費の抑制、医療の適性化などにつながると期待されるのが、今回紹介するDTxです。ここでは、将来性のある業界への転職を目指す方に向けて、DTxの役割や活用のメリットなどについて解説します。  

DTxとは、患者自身で医療行為を行うためのソフトウェア全般のこと

DTx(Digital Therapeutics:デジタルセラピューティクス)に明確な定義はありませんが、現時点では「エビデンスにもとづいた疾病の予防、診断・治療などの医療行為を患者が行えるよう、モバイルアプリやITサービスとして提供するソフトウェア」と解釈されていることが多いようです。 株式会社グローバルインフォメーションの市場調査レポート「デジタル治療(DTx)の世界市場と市場予測」では、世界におけるDTxの市場規模について、2021年の37億9,000万米ドルから2028年には225億1,000万米ドルに成長すると予測しています。 背景には、高齢化によって糖尿病や高血圧、脂質異常症、腎疾患、関節リウマチ、アレルギー疾患、呼吸器疾患といった慢性疾患の有病率が上がり、対策が強化されたことがあると考えられます。慢性疾患は放置するとさまざまな合併症を引き起こす可能性があり、早期の対処が欠かせません。 反面、早期介入で生活習慣を改善すれば悪化せずに済むものも多く、患者自身の意識と医療の介入の仕方によっては、予防が可能であるともいえます。こうした予防医療の可能性を拡大するDTxへの期待が、市場規模の拡大予測につながっています。 また、コロナ禍で医療機関に足を運ぶことをためらう患者が増えて受診控えが進んだこと、不用意な接触から医療者を守る意識が高まったことも、DTxに注目が集まる要因になりました。この点については、医療者と患者が距離を取った上で適切な療養や薬の服用の指示を受ける、遠隔診療の普及と共通する点があるといえそうです。  

DTxに期待される役割

DTxのそもそもの発祥は、2017年に設立されたデジタルへルス領域の業界団体である「Digital Therapeutics Alliance」が提唱したことが始まりです。日本では、2018年に厚生労働省が開催した「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」で取り上げられ、認知度が高まりました。 パソコンやスマートフォンが普及し、誰でも、どこにいても手軽に医療情報をデジタルで受け取れるようになった時代の流れも、DTxの推進を後押ししているといえるでしょう。 DTxには、前述した慢性疾患の予防による医療費削減、健康寿命の延伸、若年層の医療費負担の軽減、非接触ニーズへの対応のほか、医療費の適正化につながることが期待されています。 医療費が高騰する中、「受けた医療サービスに対して、支払った費用が高すぎる」と感じたことがある人は少なくないでしょう。医療サービスの内容と、医療費のつり合いを図る必要性は日増しに高まっています。医療機関を受診せずに診察が完結するDTxは、こうした医療費の問題を解決できる可能性があるのです。  

DTx活用のメリット

DTxには、医薬品や一般的な治療用医療機器とは異なる特性を活かした、治療上のさまざまなメリットがあります。ここでは、DTxの代表的な6つのメリットをご紹介します。 デジタルならではの治療効果向上が見込める DTxを活用することにより、医師側は患者の認知や行動を動画で把握したり、日々の服薬記録を把握したりできるようになります。患者側も、医師の指示に従いながら積極的かつ確実に服薬を継続できることにつながるでしょう。 これにより、処方時に期待した治療効果を正しく引き出すことができるといえます。  

データが集めやすく、診療の質が向上する

一般的な治療では、医師が問診でじっくりとヒアリングをし、服薬の状況や日常生活の過ごし方などを把握します。しかし、患者の記憶があやふやな場合や、治療に積極的でない場合は、申告された状況が事実かどうかわからないという問題がありました。 その点、DTxであれば、患者が空き時間を使ってアプリに入力するデータから患者の状態を分析し、リアルでの医師の診察までの期間をデータで埋めることができます。これにより、診療の質と医学的な介入の効果の向上が見込め、医療者の負担軽減も図ることができます。  

医療費の削減につながる

新薬の開発にかかる莫大な費用に比べて、DTxの開発にかかる費用は10分の1程度で済むといわれています。医療機器としてのソフトウェアであるDTxが想定どおりに機能すれば、患者の行動変容や治療継続によって重症化を防ぐことができ、医療費の適正化および削減につながるでしょう。  

医療機関同士の連携がしやすくなる

データを用いた医療機関同士の連携がしやすく、複合的な疾患を持つ患者の治療などがスムーズになります。これにより、患者一人ひとりの症状や生活背景に応じて、専門分野の枠を越えたシームレスな治療介入もしやすくなるでしょう。  

不要な接触を減らすことができる

コロナ禍では、医療者と患者、および何らかの基礎疾患を持つ患者の外部との不要な接触は、避けるべきとされてきました。コロナ禍が落ち着いた後も、何らかの感染症が流行した際には、対面で会話をせず、身体接触のないDTxを用いた治療が役立つときがあるでしょう。 医師が感染から身を守る上でも、必要最低限の接触で済むDTxは有効です。  

高齢者など、医療弱者の助けになる

受診の必要があっても、「独居である」「身体的に不自由で通院がままならない」「医療機関が遠く、こまめな通院が難しい」といった事情を抱える医療弱者が存在します。DTxは、こうした社会問題の解決にもつながる可能性があるのです。  

DTx活用の課題

メリットばかりのように見えるDTxですが、普及を阻む心理的・物理的な障壁や、活用する上での課題がないわけではありません。ここからは、DTx活用の課題について解説します。  

患者側がデジタルツールを保有している必要がある

DTxは、エビデンスにもとづいた診断・治療を提供する医療機器としてのソフトウェアであり、使用するには何らかのデジタルツールを保有している必要があります。 マイボイスコム株式会社が2021年に実施した「スマートフォンに関する調査」によれば、スマートフォンの所有率は86.9%で増加傾向にあり、年代別では10・20代で約98%、30~50代で90%前後、70代で80%弱となっています。 この結果を見ると、幅広い年代がスマートフォンを使用しており、飛躍的に普及していることがわかります。一方で、70代の20%は保有していないと見ることもでき、さらにその上の世代になると保有率が下がると予想されることから、医療を必要とする世代に向けた平等なサービスの提供には物理的な壁があるといえます。  

ITリテラシーが低いと使えない

前出の調査でスマートフォンにおいて利用している機能を聞いた質問では、「電話」と答えた人が最も多く、「カメラ」「ウェブサイト閲覧」「メール」と続き、専用アプリを用いることで通話できる「インターネット電話」となると「利用している」が半数強にとどまりました。このことから、一定数の人は、スマートフォンの限られた機能だけを使用しているといえます。普段からアプリを使い慣れている人や、音声・ビデオ通話、ウェブ会議ツールなどを使用した経験がある人でないと、DTxといわれてもなかなか手が出にくいでしょう。 開発後に医師が処方すれば受け入れられる新薬と違い、個々のITリテラシーに依存する部分があることは否定できません。  

心理的なハードルが高い場合がある

「医師に診てもらう」「医師と話す」ことを心の拠り所としている患者は、会わずに済むDTxに不安を感じ、なかなか受け入れられない可能性があります。こうした心理的なハードルは高く、導入を停滞させる要因になります。  

使用する医師の理解が必須である

医師がDTxを医療機器として認め、有用であると判断しない限り、患者にサービスが届くことはありません。しかし、患者側に一定数「直接会って話したい」と考える人がいるように、対面でのコミュニケーションを大切にする医師も多くいるのが事実です。 自身の治療の補助として使うことに抵抗を感じる医師に対して、その特性を解説し、有用性と将来性を理解してもらう必要があるでしょう。  

認知度の向上から取り組む必要がある

現時点でDTxについて詳しく知っているのは、医療機器の研究開発や製造販売開発に取り組む企業、製薬会社、デジタルヘルスケアといったサービスを提供する企業などが中心です。医療関係者の中にも知らない人は多く、ましてや患者の認知度は非常に低いといえるでしょう。 サービスの普及・推進にあたっては、「DTxとは何か」「DTxで何ができるか」といった基本から広報活動を行っていかなければなりません。  

DTxに興味がある方は、タイグロン パートナーズへ

DTxは、まさに「これから」の技術であり、求人数も限られています。しかし、超高齢社会を迎えた日本において、DTxの社会実装は非常に有用であり、多くの可能性を秘めています。 数年後には市場規模の拡大が見込まれる領域でもあり、業界に興味がある人は今から情報収集と準備を進めておくべきでしょう。 タイグロン パートナーズでは、プロフェッショナル人材に特化したトップレベルの人材紹介サービスを行っています。 DTx関連企業への転職を検討している方や優秀な人材を採用したい企業担当者の方は、ぜひタイグロン パートナーズにお問い合わせください。  

この記事の監修

野尻 剛二郎

Nojiri Kojiro


【担当職域】 ・アセットマネジメント ・グローバルマーケッツ ・法務コンプライアンス 【経歴】 タイグロン パートナーズの前身であるアカマイフィナンシャルマーケッツジャパンの代表として入社以前は、日興証券ロンドン支店、リーマン・ブラザーズ証券、モルガン・スタンレー証券にて内外の機関投資家向け日本株式営業および営業のヘッドポジションを担当。その後、外資系大手サーチファームであるラッセル・レイノルズ・アソシエイツの金融担当のシニアコンサルタントとしてエグゼクティブサーチのキャリアをスタートさせる。英語堪能。南カリフォルニア大学にてMBA取得。 【自己紹介】 証券や資産運用会社のサーチを得意としています。自分自身が20代から30代のあいだに、日系・外資系証券会社においてビジネスの最前線にいた経験から、顧客や候補者と同じ目線での採用や転職のアドバイスができることが私の強みです。 弊社の特徴のひとつに、業界や採用企業の内部に精通し、ポジションを深く理解している点があります。転職をお考えの方、優秀な人材を募集している企業担当者の方は、ぜひ一度弊社までお問い合わせください。    
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