コンサルティングファームの戦略プロジェクトは期間が限られており、うまくいくかどうかは最初の設計でほぼ決まります。マネジャーは着手前にタスク、ミーティング、チームの働き方という3つを設計し、あわせて論点と仮説を軸に検証を進めていきます。
本記事では、戦略プロジェクトが始まる4つのきっかけ、提案書の構成、マネジャーが行う3つの設計、インプットからアウトプットまでのコンサルタントの仕事の流れなどを解説します。

A.T.カーニー・BCG出身の藤熊浩平氏による『コンサルティングビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)を、コンサル転職をご検討中の方に無料でお届けしています。業界の歴史から主要ファーム、プロジェクトの進め方、キャリアまでを1冊で押さえられます。本記事はその一部を抜粋したものです。
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戦略プロジェクトはどのように始まるのか
コンサルティングファームが具体的にどのような仕事をしているのか、オーソドックスな戦略プロジェクトを題材に紹介していきます。
そもそも戦略プロジェクトは、どのようなきっかけで始まるのでしょうか。大きく4パターンに分けられます。
1つ目は、「非常事態」によるパターンです。JAL再生や東電国有化などが該当します。
大きな環境変化があった際には、会社を根本から立て直す必要に迫られて、戦略プロジェクトが行われることがあります。頻度は数年に1回程度と少ないですが、一度始まるとビッグプロジェクトになります。
2つ目は、「オーナーチェンジ」によるパターンです。投資ファンドによる企業買収などが該当します。
コンサルティングファームは、買収前のビジネスDDの段階から携わり、買収対象企業の将来の戦略を描き、買収後も描いた戦略に沿った支援を行うことがよくあります。その場合、支援するのは買収対象企業ですが、最終的なクライアント(フィーの出どころ)は投資ファンドとなります。
3つ目は、「プロ経営者」によるパターンです。日系企業ではあまり馴染みがないですが、海外企業およびその日本法人ではよくあるケースです。
コンサルティングファームは、外部から来たプロ経営者の参謀役として、新たな戦略の策定を支援することがあります。特に、コンサルタント経験のあるプロ経営者の場合は、コンサルタントの使い方を熟知しているので、コンサルティングファームを積極的に活用する傾向があります。
最後は、「経営伴走」によるパターンです。これが、最も一般的な戦略プロジェクトの始まり方になります。
コンサルティングファームでは、パートナーと呼ばれる経験豊富なコンサルタントが営業活動を行います。これは、既製の商品やサービスを販売する会社とは異なり、無形の「プロジェクト」という名の「テーラーメイドソリューション」を販売しているためです。
パートナーの一番大事な仕事は、クライアント企業の経営陣と対話を重ねることです。その際、特定の専門家(Hired Expert)ではなく、信頼できる助言者(Trusted Advisor)となることで、経営上の悩み(CXOアジェンダ)を相談される関係性を築いていきます。そして、それらのCXOアジェンダの中から、コンサルティングファームが支援することで解決できること、加えて、フィーに対して10倍以上の成果が期待できることを特定し、プロジェクトとして提案します。
クライアントが自ら提案依頼書(RFP)を作成し、コンペを行うこともありますが、そのはるか手前の漠然とした悩みの段階から寄り添い、先回りして提案するのが、理想的なプロジェクトの始め方になります。
戦略ファームの提案内容
プロジェクトが始まる手前で、戦略ファームはどのような提案を行っているのでしょうか。まだ無形のものに対し、1億円を支払う意思決定をしてもらうためには、相応の価値があることを提示しなければなりません。
ここでは、コンサルティングプロジェクトの「提案書」にフォーカスを当てて、一般的な構成とそれぞれの意味合いについて、順番に紹介していきます。
プロジェクトの背景と目的
まず導入で、「プロジェクトの背景・目的」について説明します。最初の入口でボタンをかけ違えると、その後の話がスムーズに流れなくなるので、提案書において最も丁寧にすり合わせる部分になります。
「背景」は「WHY」に応えるもので、なぜ今このプロジェクトを行うべきなのか、クライアントの経営の文脈において、このプロジェクトはどのような価値や意味を持つのかについて認識合わせを行います。
「目的」は「WHAT」に応えるもので、何をこのプロジェクトを通じて達成したいのか、クライアントがこのプロジェクトに期待する成果は何かについて目線合わせを行います。
プロジェクトの検討アプローチ
次に、その目的を達成するための「HOW」として「プロジェクトの検討アプローチ」、すなわち、どういう順番で、どのような検討を行い、どうやって期待される成果にまでたどり着くのかについて、見通しを示します。
より具体的にいうと、プロジェクトの大きな進め方を理解してもらうための「全体像」と、各パートの詳細な進め方を理解してもらうための「検討イメージ」を提示します。
「検討イメージ」として用意する資料は、ケースバイケースになりますが、例えば、検討の枠組み(フレームワーク)や切り口(論点)、過去のプロジェクトでの類似事例や今回のプロジェクトでの初期仮説などが該当します。
プロジェクトの期間・体制・予算
そして、それらを具体的なタスクや実際のスケジュールに落とした「ワークプラン」、プロジェクトを推進するためのチーム編成や従事するメンバーを記載した「支援体制」、その体制×期間にかかるフィーなどを含む「お見積もり」を提示します。
ここまでは、どのファームにも共通する「規定演技」ともいえる提案項目になりますが、最後に「Why ●●(ファーム名)」という「自由演技」のパートがあり、そこで各社とも独自のセールスポイントを盛り込みます。
前に紹介した、戦略プロジェクトが始まる4パターンのうち、最後の「経営伴走」以外はコンペになることが多いです。このコンペは別名、「ビューティ・コンテスト(略してビューコン)」とも呼ばれます。優勝者以外は全員負けなので、各社とも「美しく」見えるよう、全力で磨き込みます。
何をアピールすべきかは、プロジェクトの内容にもよりますが、関連するプロジェクトの支援実績や成果、従事するメンバーの経歴や専門性、ファーム全体でのサポート体制(グローバルのネットワークやアドバイザーなど)が定番のメニューになります。

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プロジェクトは設計が9割
ここからは、晴れてプロジェクトを受注した後の話をしていきます。先ほど、コンサルティングファームの営業はパートナーの仕事という話をしましたが、プロジェクトを受注した後は、主導権がマネジャーへと移っていきます。
コンサルティングファームのマネジャーは、サッカーでいうと「司令塔」のような役割を担います。常に周りを見渡しながら、チームメンバーにパスを供給してゲーム(プロジェクト)全体をコントロールしつつ、ここぞという場面では自らシュートを決めにいく(付加価値を出しにいく)こともあります。
そして、マネジャーの大仕事の1つが、プロジェクトの設計になります。最初の設計の段階で、プロジェクトの成否が決まるといっても過言ではないくらい、とても大事な仕事で、マネジャーの一番の腕の見せ所でもあります。特に戦略ケースのように、スコープが広く、型にはまらないプロジェクトの場合、その重要性はより高くなります。
では、マネジャーは、プロジェクトの最初に何を設計するのでしょうか。代表的なものを3つ、紹介していきましょう。
タスクの設計
1つ目は「タスクの設計」です。これは提案書の段階で仕上がっていることが理想ですが、「検討アプローチ」の段階で止まっている場合は、マネジャーがそこから腕をまくり、具体的な作業(タスク)に落とし込んでいく必要があります。
プロジェクトには必ず期間があり、「絨毯爆撃」のごとくボトムアップで作業していると、期待される成果にまでたどり着けません。そのため、コンサルタントは常に「仮説」を持ちながら、トップダウンで作業を進める必要があります。
その際、「何に対して仮説を持つか」というのが重要で、それをBCGでは「論点」、マッキンゼーでは「イシュー」と呼んでいます。
論点とは、「解くべき問い」のことを指し、プロジェクトで最終的に解くべき問い(大論点)から、それに答えるために解くべき問い(中論点や小論点)へと、「ロジックツリー」を使ってブレークダウンしていきます。そして、各論点に対する仮説(現時点の答え)を設定し、その確からしさを検証するためのアプローチを定めたところで、ようやくタスクに落ちて、メンバーに割り振ることができます。
これらを書き下ろすことを、BCGでは「論点整理(論点・仮説・検証アプローチ)」、マッキンゼーでは「イシューアナリシス」と呼び、プロジェクト全体の設計図のようなものになります。
ミーティングの設計
2つ目は「ミーティングの設計」です。マネジャーは、プロジェクトが確定したらすぐに、3ヶ月のプロジェクトなら3ヶ月先まで、主要なミーティングを設定します。
まず設定するのは、クライアントとのミーティングです。月次で「ステアリング・コミッティ(SC)」、週次で「ワーキング・グループ(WG)」を設定するのが一般的です。
SCはクライアントの経営陣も参加する意思決定を行う場(中間報告や最終報告など)で、WGはそこに向けてクライアントのプロジェクトメンバーと議論を重ねる場です。
その他にも、プロジェクトの初期にインタビューをしたり、中盤で集中討議(合宿)をしたりしますが、組めるスケジュールは最初にすべてアレンジしてしまいます。その上で、各ミーティングでの獲得目標(ゴール)と討議すべき内容(アジェンダ)を想定しながら、プロジェクトの進行計画(ゲームプラン)を組み立てていきます。
次に、インターナル(チーム内)のミーティングを設定します。BCGでは、CTM(ケース・チーム・ミーティング)と呼んでいましたが、パートナーを含めたメンバー全員で議論する場を、週次で設定します。
このCTMを、どのタイミングで実施するか(SCやWGの前にするか/後にするか)、そこで何を議論するのか(資料の事前確認をするか/ネクストステップを相談するか)も、マネジャーが指揮をとります。それとは別に、マネジャー以下で議論するミーティングも日次で設定して、1日1日、チームで価値を積み上げていきます。
働き方の設計
最後は「働き方の設計」です。コンサルティングプロジェクトは、毎回違うメンバーによる協働作業となるので、最初にチームとしての働き方のルール(チームノーム)を定める必要があります。
マネジャーは、プロジェクトメンバーが決まったら、最初に各メンバーとの1 on 1を行います。そこで、その人となりの理解に努めるとともに、それぞれの想いや要望にも耳を傾けます。
当然ながら、コンサルタントは生身の人間なので、AIと違って個性や感情が豊かで、好きなことや得意なこと、仕事へのこだわりやプライベートの事情など様々です。それらを考慮した上で、各メンバーが高いモチベーションを維持して、最高のパフォーマンスを発揮できるような環境を整えていきます。
また、マネジャーはメンバーの育成にも責任を持ちます。そのため、各メンバーが成長するための課題を把握した上で、それを克服するのに適したチャレンジとフィードバックの機会も、プロジェクトの中で用意していきます。
一方で、コンサルティングプロジェクトは、個人プレーではなくチームプレーなので、マネジャーはチーム全体のパフォーマンスにも責任を持ちます。各メンバーの最高のパフォーマンスの総和が、チーム全体のパフォーマンスの最大化につながれば良いのですが、そう単純な話ではありません。各メンバーの働きやすさや成長機会、メンバー同士の相性や連携の仕方など、様々な要素のバランスをとりつつ、全体最適となる「チームノーム」を定めるのも、マネジャーの大事な仕事です。
以上の3つの設計が終わった状態で、キックオフミーティングの日を迎えられるのが、マネジャーとして理想のプロジェクトの始め方になります。
コンサルワークの秘伝のレシピ
キックオフミーティングを終えると、プロジェクトメンバーも含めた総力戦がスタートします。コンサルタントはその最中で、どのような仕事をしているのでしょうか。
コンサルティング業とは、「情報を付加価値に転換する仕事」です。さらに、戦略ファームを例えるなら、情報の「インプット(収集)→プロセッシング(加工)→アウトプット(価値)」を高速で行う「付加価値製造工場」とも言えます。
別の例えをしてみると、コンサルタントは人気レストランのシェフのように、厳選した食材を仕入れて(インプット)、独自のこだわりの調理法で(プロセッシング)、創意工夫を凝らした提供方法で(アウトプット)、「なるほど」を引き出す職人とも言えます。
その各工程において、具体的に何をしているのか、コンサルタントの「秘伝のレシピ」とも言える仕事の中身を紹介していきます。
インプット(情報収集)
まずは「インプット(情報収集)」を行います。GIGO(Garbage In, Garbage Out)という言葉もありますが、良質なインプットなくして良質なアウトプットは生み出せません。コンサルティングを行う際のインプットには、大きく2つの段階があります。
最初は、「キャッチアップ」の段階で、クライアントの業界やプロジェクトのテーマについて、基本的な情報を把握します。かつては、大型書店で関連書籍を〝大人買い〟したり、インターネットで関連用語を検索したりしていましたが、最近ではChatGPTなどの生成AIツールによって、このプロセスが代替されつつあります。それらを駆使しながら、一刻も早くクライアントと同じ知識レベルで議論ができるよう準備します。
その上で、「オーバーテイク」の段階、すなわち、クライアントが知らない「生の情報」を仕入れて、付加価値につなげる段階に移っていきます。
すでにデータ化されている情報は、容易に共有知化されるので、まだデータ化されていない状態のものを、インタビューによって掘り起こしにいくのが、基本的なアプローチになります。インタビューの種類としては、「エキスパートインタビュー」「ユーザーインタビュー」「クライアントインタビュー」などがあります。
プロセッシング(情報加工)
次に、「プロセッシング(情報加工)」を行います。集めた素材(ファクト)を分析したり、組み合わせたりして、洗練していく工程になります。
経営コンサルティング産業の父とされる、マッキンゼーのマービン・バウワーは、「グレイヘア・コンサルティング(経験豊富な老紳士によるアドバイス)」から「ファクトベース・コンサルティング(データや分析に基づく提言)」への転換を図り、「コンサルティングの民主化」を果たしました。その基礎となるのが「ロジカルシンキング」であり、コンサルタントが思考する際にも、チームで議論する際にも、共通言語として活用されます。
そして、ロジカルシンキングを駆使し、ファクトの集積から意味のある洞察や示唆を抽出して、クライアントにとって価値あるものへと仕立てていきます。
アウトプット(提供価値)
最後に、「アウトプット(価値提供)」を行います。練りに練って導き出した洞察や示唆を、受け手が理解しやすい形にして、プレゼンテーションする工程になります。
実は、付加価値があるかどうかは、インプット(新たな情報があるか)とプロセッシング(鋭い洞察や示唆があるか)の段階ですでに決まっています。ただし、その付加価値をどこまで実感してもらえるかは、アウトプットの表現次第で大きく変わってきます。
また、コンサルティングは、クライアントを介して世の中に価値を届ける仕事なので、クライアントの意思決定や行動につながらなければ、成果を出したことにはなりません。そのため、コンサルティングファームには、クライアントの行動変容を促すためのプレゼンテーションのノウハウが蓄積されています。
ここまで、コンサルティングファームの中の工程について紹介しましたが、そこで生み出されたアウトプットは、クライアントにとっての新たなインプットとなり、そこで引き出された反応は、コンサルティングファームにとっての新たなインプットにもなります。
それは言い換えると、クライアントとの議論を通じて、「仮説(アウトプット)→検証(インプット)」を繰り返しているということです。そして、この仮説検証のサイクルは、コンサルタント個人の階層でも、プロジェクトチームの階層でも、相似形のように行われています。
つまり、コンサルティングワークとは、「インプット→プロセッシング→アウトプット」を土台とした仮説検証のサイクルを、個人/チーム/クライアントの各階層において高速で回すことで、仮説を日々進化させて、付加価値へと昇華させている活動になります。
戦略プロジェクトの成否は、最初の設計で大きく決まります。論点と仮説を立て、ミーティングやチームの働き方まで組み立てたうえで、仮説検証のサイクルを高速で回していくのがコンサルタントの仕事です。

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