コンサルティングファームは企業の経営を支える立場にありながら、過去には自ら不祥事の当事者にもなってきました。マッキンゼーでは現役パートナーと元グローバルトップが相次いで逮捕され、米国のオピオイド危機への関与では、約10億ドルの和解金に加えて6億5000万ドルの追加支払いにも合意しています。日本でも、情報漏洩や大規模なシステム障害が表面化しました。
本記事では、エンロン事件とマッキンゼーの関係、機密情報を悪用したインサイダー取引、オピオイド危機への関与、規制する側とされる側の両方を支援した利益相反、日本で起きた情報漏洩とシステムトラブルなどを解説します。

A.T.カーニー・BCG出身の藤熊浩平氏による『コンサルティングビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)を、コンサル転職をご検討中の方に無料でお届けしています。業界の歴史から主要ファーム、プロジェクトの進め方、キャリアまでを1冊で押さえられます。本記事はその一部を抜粋したものです。
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エンロン事件とマッキンゼー
コンサルティングの負の歴史として、真っ先に名前が挙がるのが、「エンロン事件」です。この事件では、史実としてアーサー・アンダーセンは、信用失墜によって廃業に追い込まれはしましたが、法的な罪に問われたわけではありません。正確にいうと、捜査の過程でエンロン社の監査資料を破棄し、証拠隠滅を図ったという容疑で有罪判決が下りますが、その後の控訴審の結果、逆転無罪となっています。
では、有罪になったのは誰かというと、エンロン社の内部でコンサルティングファームのアドバイスに基づいて意思決定を行った人たちです。
なかでも最も重い判決を受けたのは、当時CEOだったジェフリー・スキリングです。彼は共謀や詐欺、インサイダー取引など、19もの罪に問われ、懲役24年と罰金4500万ドルの刑に処せられました。
実は、彼はもともとマッキンゼーのコンサルタントで、最年少でパートナーにまで昇進しています。エンロン社は、彼のマッキンゼー時代の主要クライアントでしたが、創業者のケネス・レイに引き抜かれる形で転職し、事件の当事者となります。
その後も、マッキンゼーとエンロン社の蜜月関係は続き、一時期は年間1000万ドル以上の報酬を得ていたとされます。しかしながら、マッキンゼーはエンロン社の経営に深く関与していたとはいえ、あくまでアドバイスを提供していただけなので、アーサー・アンダーセンと同様、法的な罪に問われることはありませんでした。
加えて、マッキンゼーは独立系のファームのため、会計監査も担当していたアーサー・アンダーセンとは異なり、エンロン社の不正会計による「風評被害」を受けることもありませんでした。
それどころか、エンロン事件は、マッキンゼーにとってむしろ「追い風」となります。エンロン事件を受け、SOX法が制定され、大手会計事務所がコンサルティング市場から二度目の退場を余儀なくされたからです。その結果、二度目の〝漁夫の利〟をマッキンゼーは手中に収めることになります。
マッキンゼーにとって、エンロン社へのコンサルティングは、最終的に会社が倒産したという意味では明らかな「失敗」です。
しかしながら、倒産するまでの間、多額のコンサルティング報酬を得て、倒産した後は、競合ファームが市場から消えたという意味では、ビジネスとしては「大成功」だったとも言えます。
プロフェッショナルサービスとしての「失敗」が、巡り巡ってコンサルティングビジネスとしての「成功」を導くというのは、何とも皮肉な因果です。
機密情報を悪用したインサイダー取引
エンロン事件後のマッキンゼーについて、話を続けましょう。
エンロン事件では難を逃れるどころか、「神風」が吹く結果となりましたが、そこから数年が経過した2009年、マッキンゼーから今度は、逮捕者が出ることとなります。
逮捕されたのは、当時マッキンゼーの現役パートナーだった、アニル・クマールです。容疑は、クライアントの機密情報を売り、インサイダー取引に加担したというものです。
情報を横流しした相手は、ビジネススクールの同級生で、ヘッジファンド(ガレオン・グループ)の創設者、ラジ・ラジャラトナムです。彼は、クマールから受け取った情報を利用して、2000万ドルもの利益を手にしたほか、多数のインサイダー取引に関与した罪で、懲役11年と罰金1億5000万ドル超の刑に処せられます。
そして、ラジャラトナムには他にも情報提供者がいました。それは、1994年から2003年まで、10年近くにわたってマッキンゼーのグローバルCEOを務めた、ラジャット・グプタです。
グプタは、マッキンゼーを卒業した後、P&Gやゴールドマン・サックスなどで取締役を務めていましたが、そこで知り得た機密情報を、同じくラジャラトナムに横流ししていました。そして2012年、グプタにも有罪判決が下り、懲役2年と罰金500万ドルの支払いを命じられます。
つまり、「プロフェッショナルファーム」の始祖であり、「プロフェッショナル」を最も多く育成・輩出してきたはずのマッキンゼーから、現役パートナーと元グローバルトップが相次いで逮捕されるという、異常な事態が起こってしまったわけです。
この事件に危機感を覚えたマッキンゼーは、ファームの改革に乗り出し、個人の投資に関して厳格な「ルール」を設けます。そして、これらを苦い教訓として、「過去の黒歴史」にできれば良かったのですが、残念ながら話はここでは終わりません。
2021年、当時マッキンゼーの現役パートナーだったプニート・ディクシトが、またしてもインサイダー取引の容疑で逮捕されます。マッキンゼーはこの時、ゴールドマン・サックスをクライアントとして、同社のグリーンスカイ社買収に関するコンサルティングサービスを提供していました。このプロジェクトにリードしていたディクシトは、そこで知り得た公開前の買収情報に基づき、約45万ドルの利益を不正に得たとして、懲役2年の有罪判決を受けます。
この45万ドルという金額は、これまでの事件とは桁が大きく異なり、おそらくマッキンゼーのパートナーであれば、その年収に大きく届かない水準だと思います。十分な給与をもらっているはずのエリートコンサルタントが、わずかにそれを積み増そうとした結果、華々しい人生を棒に振ってしまったという切ない事件です。

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社会問題に加担した「オピオイド危機」
ここまで紹介してきたのは、「お金」に関わる犯罪であり、プロフェッショナリズムを著しく欠いた、一部の強欲な「個人」の問題として片づけられなくもない話です。
しかし、次に紹介するのは「人の命」に関わる犯罪であり、マッキンゼーが「組織」的に深く関わっていた話になります。
それは、米国で現在、深刻な社会問題となっている「オピオイド危機」です。
オピオイドとは、日本語で「医療用麻薬」や「麻薬性鎮痛薬」などと呼ばれるもので、「モルヒネ」もその一種です。オピオイドには鎮痛効果があるので、医療行為の中で痛みを緩和するために使われます。
他方、摂取すると一時的に幸福感を得られたり、吐き気や呼吸抑制などの副作用を引き起こしたりもするため、慎重な取り扱いが必要な薬剤でもあります。医師が用法・用量を正しく守って処方する分には問題ないのですが、過剰に処方し、継続的に摂取してしまうと、依存性が生まれてしまうのが問題点です。
この問題を助長したのが、パーデュー・ファーマ社が開発したオピオイド系の鎮痛剤、「オキシコンチン」です。この薬剤は、終末期の「強い痛み」を緩和するために、やむなく使われているものと同様の成分になります。
パーデュー社はその依存性のリスクを偽り、「幅広い痛み」に処方されるように仕向けます。そして、拡販のための大々的なマーケティング活動や、大量のリベートを投下した販促活動を展開します。
その結果、オキシコンチンは、「ゲートウェイドラッグ」として、薬物依存症の入口となり、「ヘロイン」などのオピオイド系の違法薬物にまで手を染める人が続出します。
その後遺症は、現在もまだ続いており、米国全土でこれまでに50万人以上が亡くなったとも言われています。より詳しく知りたい方は、映像化もされているので、『DOPESICK』や『ペイン・キラー』をご覧になることをおすすめします。
そして、このパーデュー社の「販売加速戦略」を裏で支援していたのが、何を隠そうマッキンゼーになります。
その戦略には、「オキシコンチンを多く処方する医師を特定して、パーデュー社の営業部隊がそこに働きかける計画」などが含まれており、マッキンゼーはこれらの取り組みを、2012年から2018年にかけて支援していたことも明らかになっています。
しかもマッキンゼーは、オキシコンチンのリスクを事前に認識していたとされ、そのことを示す証拠文書を隠滅した容疑もかけられています。そして、危険性を認識した上で、「故意的かつ意図的に」不適切な販促活動に加担したとして、各方面から相次いで訴訟を起こされています。
エンロン事件では無傷だったマッキンゼーですが、さすがに今回は、そうは問屋が卸しません。これまでに約10億ドルの和解金を支払い、さらに2024年末の裁判では追加で6億5000万ドルを支払うことに合意します。その合計額は、マッキンゼーの年間売上(約160億ドル)の1割に相当し、身から出た錆とはいえ、身を滅ぼしかねない代償を支払う事態にまで発展しています。
昨今は、「社会課題」の解決に向けた取り組みが求められ、取引先の選定に関しても、「社会的責任」が問われるようになってきています。そんな最中に、深刻な「社会問題」に加担していたという事実は、マッキンゼーの今後のビジネスにおいて、逆風となることは不可避です。
エンロン事件では、2001年にエンロン社が経営破綻したのに続き、翌2002年に、かつて世界最大の会計事務所だったアーサー・アンダーセンが廃業に追い込まれました。
今回は、2019年にパーデュー社が同じく経営破綻しましたが、今度はマッキンゼーが、アーサー・アンダーセンと同じ道をたどる可能性も、あながち否定はできません。
長らくコンサルティング業界を牽引し、まもなく創業100年を迎えようとしているマッキンゼーが、無事にその日を迎えることができるのか、今まさにその瀬戸際にあるとも言えます。
「両手取引」による利益相反
マッキンゼーの闇の話は、まだここでは終わりません。
オピオイド裁判の調査の過程で、マッキンゼーがパーデュー社の支援と同時に、FDA(米国食品医薬品局)の支援も行っていたことが判明します。
FDAは、日本の厚生労働省にあたる政府機関で、米国の消費者の健康を守るために、食品や医薬品の安全性や有効性を監督する役割を担っています。パーデュー社の「オキシコンチン」に関しても、米国で商品として販売するためには、所定の審査プロセスや基準をクリアして、FDAの承認を得る必要があります。
つまり、パーデュー社とFDAのコンサルティングを同時に行っていたというのは、「規制される側」と「規制する側」の両方に助言をしていたことになります。これはかつて、アーサー・アンダーセンをはじめとする大手会計事務所が、「監査する側」の立場にありながら、同時に「監査される側」のコンサルティングも行っていたのと同じ構図です。
大手会計事務所に対しては、SOX法の成立により、監査部門とコンサルティング部門の厳格な切り離しが義務づけられました。しかし、それ以外のコンサルティングファームに対しては、「利益相反」を防ぐための明確な法規制はなく、いまだ「グレーゾーン」のまま残っています。
当然ながら、各ファームとも、コンフリクトのあるクライアントを同時に支援する場合には、「ファイアーウォール」と呼ばれる「機密情報の遮断壁」を設置すると謳っています。しかし、実際に「物理的な壁」を設置できるはずもなく、その運用は各コンサルタントの倫理観(プロフェッショナリズム)に委ねられています。
では、マッキンゼーの場合はどうだったのでしょうか。ニューヨーク・タイムズの記事によると、「FDAは2011年、オピオイドのような高リスク製品に関する製薬会社の安全性監視プランを監督する部署へのアドバイザーとして、マッキンゼーを起用した」とあり、その上で、「2010年以降、少なくとも22人のコンサルタントが、パーデューとFDAの両方を担当し、なかには双方の案件を同時に掛け持ちしていた者もいた」とされています。
これはすなわち、「両手取引」の中で「マッチポンプ」的な仕事、例えば「FDAの承認基準を操作しながら、パーデュー社に対してオキシコンチンがその基準をクリアするよう助言していた」と疑われても仕方のない状況です。
さて、ここまではグローバル(かつマッキンゼー)の話を中心に紹介してきましたが、ここからは日本の「負の歴史」に目を移していきます。
日本でも、プロフェッショナリズムの欠如から、「利益相反」が行われていた実態が、明るみになった事件があります。次に〝ヒール〟役になってもらうのは、BIG 4の中でも最大の総合ファーム、デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)です。
事件の発端は、2022年2月の週刊ダイヤモンドの記事です。「セブンDX敗戦」と題する特集の中で、セブン&アイ・ホールディングス内の中間報告資料の一部が掲載され、その中に、対外的に公表されていないはずの「イオンのDX推進体制」の情報が、堂々と紛れ込んでいました。
そして、同じ記事の中で、「中間報告はコンサル大手のデロイト トーマツ コンサルティングがまとめたものだ」とも記載されていました。
DTCはこれを受けて、同年6月に次のようなプレスリリースを出します。
「事実関係について弊社から独立してデロイト トーマツ グループに調査委員会が設置され、第三者の弁護士の検証も踏まえて調査をした結果、当該資料は弊社を起点として漏洩し、当該週刊誌に掲載された事実が確認されました」
この事件には、大きく3つの問題があります。
1つ目は、競合関係にある同業種クライアント(イオンとセブン&アイ)を、同時に、同テーマ(DX戦略)で支援していたことです。このこと自体は、法的には必ずしもNGではありませんが、プロフェッショナルファームの企業姿勢としてはNGです。
2つ目は、「利益相反」の関係にある両クライアントの機密情報が、ファームの内部で筒抜けになっていたことです。監査部門とコンサルティング部門との間には、厳格な「ファイアーウォール」を敷く総合ファームにおいて、コンサルティング部門の内部の「ファイアーウォール」は有名無実化していることが、今回の事件で露呈しました。
3つ目は、さらにその情報が、ファーム外にも筒抜けになっていたことです。これは、ファーム内の情報管理体制の問題でもありますが、多分にコンサルタント個人のモラルの問題です。
江崎グリコの障害など、度重なるシステムトラブル
デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)の話を続けます。
先ほどのコンプライアンス違反の謝罪から2年と経たないうちに、今度はまた別の形でDTCが「悪目立ち」することになります。
2024年4月、江崎グリコで大規模なシステム障害が発生し、チルド商品の出荷が停止します。その影響は、主力商品の「プッチンプリン」など17ブランドに及び、それらの商品が店頭から姿を消しました。翌5月、今度はユニ・チャームでも同じくシステム障害が発生し、主力商品の「ムーニー」などの納品遅れが発生しました。
この立て続けに発生したシステム障害は、いずれも基幹システムの刷新に伴うもので、両方のプロジェクトを主幹ベンダーとして支援していたのが、DTCであるとの報道がなされます。
特に、江崎グリコの損害は甚大で、完全復旧までに半年以上を要し、業績への影響額は、売上▲300億円、営業利益▲80億円にものぼり、増収増益の予定から一転、減収減益の着地となりました。その影響額の大きさから、江崎グリコがDTCに対して、損害賠償を求めて法的手段に出る可能性も報じられています。
同様の事案をすでに何度も経験しているのが、世界最大のコンサルティングファーム、アクセンチュアです。
古いものでは、読売新聞の基幹システムの刷新案件があります。2006年に開始し、約48億円の開発費を投じたプロジェクトは、2010年に頓挫し、訴訟へと突入します。
その後、2015年に和解が成立し、アクセンチュアが約4億9000万円を支払う形で決着がなされています。
また、医療機器大手のテルモの物流管理システムの刷新案件でも、訴訟に発展します。2010年に開始したプロジェクトは、2013年に頓挫し、テルモが約39億円もの損害賠償を求めて、アクセンチュアを提訴しています。
直近では、2023年に日本通運が基幹システムの開発を巡り、約125億円もの損害賠償を求めて、同じくアクセンチュアを提訴しています。
これらは、いずれも「コンサルティング」の失敗というよりは、「システム開発」の失敗という側面が強く、私の専門外の領域なので、これ以上の深入りは避けます。
ただ、1つだけ付け加えるとするならば、いずれの案件も、その発端は〝安請け合い〟にあると考えられます。そして、DTCもアクセンチュアも、業界内では「売上プレッシャー」が強いファームとして知られているので、クライアントとの長期的な信頼関係を犠牲にして、短期的な売上に走った可能性が示唆されます。
エンロン事件、インサイダー取引、オピオイド危機、情報漏洩やシステム障害など、コンサルティング業界にも業界を揺るがす事件が起こりました。

A.T.カーニー・BCG出身の藤熊浩平氏による『コンサルティングビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)を、コンサル転職をご検討中の方に無料でお届けしています。業界の歴史から主要ファーム、プロジェクトの進め方、キャリアまでを1冊で押さえられます。本記事はその一部を抜粋したものです。
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