コンサルティング業界の仕事は、生成AIの普及によって中身が変わり始めています。かつてアナリストが担っていたリサーチ業務の多くはすでに代替されつつあり、コンサルタントにはAIのアウトプットに独自の価値を上乗せする役割が求められています。AI領域に10億ドル以上を投じる方針を表明しているファームもあります。
本記事では、キャリアの選択肢としてのコンサルティングファームの位置づけ、生成AIによる働き方の変化、人材獲得と案件獲得をめぐる各社の動き、成果報酬型への移行やAI活用によるビジネスモデルの転換などを解説します。

A.T.カーニー・BCG出身の藤熊浩平氏による『コンサルティングビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)を、コンサル転職をご検討中の方に無料でお届けしています。業界の歴史から主要ファーム、プロジェクトの進め方、キャリアまでを1冊で押さえられます。本記事はその一部を抜粋したものです。
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人生100年時代におけるコンサルキャリア
コンサルティング市場の今後について、人材側の視点から見ていきます。
「終身雇用」の時代には、新卒の就職活動は、今後40年の会社人生を決める、非常に重要な意思決定でした。しかも、その意思決定を、社会人経験のない学生が、限られた情報の中で行うという、「難題」に立ち向かっていたと言えます。
その中でコンサルティングファームは、定年まで勤めることを前提とした組織ではなく、いずれ卒業することを想定したキャリアアップの場であるため、将来の可能性を広く持ちつつ、社会に出ることができる選択肢として、人気を集めています。
東大生・京大生の就職希望ランキングの上位に、コンサルティングファームが並ぶようになって久しいですが、これは、終身雇用制度の崩壊を先読みしたキャリア選択とも受け取れます。
話は逸れますが、事業の意思決定において「リアルオプション理論」というものがあります。簡単に言うと、「複数の選択肢を持ち、将来の柔軟性のある事業の方が、柔軟性のない事業よりも価値がある」、そして「将来の不確実性が高い場合は、段階的に意思決定を行える方が、今すぐ意思決定を行うよりも価値がある」という考え方です。
このリアルオプションの考え方は、そのまま「人生の意思決定」にも適用できます。
VUCAの時代において、コンサルティングファームで働くということは、将来の柔軟性を保ちながら、段階的にキャリアパスを選べる、リアルオプション的な価値の高い選択とも言えます。
ときに、新卒コンサルタントは、「モラトリアム」期間中と言われることもあります。そこには往々にして、「社会人としてのスタンスが定まっていない」というような、ネガティブなニュアンスが含まれています。
しかし、リアルオプションの考え方に立つと、実は「モラトリアム=意思決定を先延ばしする」という意思決定が、長い社会人人生における最良の選択になる場合もあるということです。
ここまで、新卒のキャリアを念頭に話をしましたが、終身雇用の終焉はすなわち、大量の中途人材の誕生を意味します。そして中途市場においても、コンサルティングファームは、人気の転職先となっています。それは、経済的な条件もさることながら、キャリアのステップアップの場として評価されている部分が大きいと推察されます。
昨今は「人生100年時代」と言われ、生涯現役でいるために「リカレント教育」が大事という話をよく耳にします。当然ながら、コンサルティングファームは教育機関ではないですが、汎用スキルを身につけられる「修行の場」として、あるいは、プロジェクトを通じて最先端の知見や旬のテーマに触れられる「実践の場」として、「学び直し」の機会を提供する場面が今後増えていくと思われます。
また、人材の流動性が高まる中で、複数のキャリアを重ね合わせる人も今後増えていくと予想されます。そして、そのキャリアポートフォリオに、コンサルティングファームが入ってくることも容易に想像がつきます。
加えて、どのファームも基本的に「出戻りOK」なので、「自己実現にチャレンジする場」と「修行・実践の場(ファーム)」を往復する「リカレントキャリア」や、同時並行で進める「パラレルキャリア」を実践する人も、同じく増えていくことが見込まれます。
〝AIパワード〟コンサルタント
2015年、「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」と題する衝撃的なレポートが発表されました。
このレポートは、野村総合研究所と英オックスフォード大学の共同研究によるもので、10~20年後の姿として、タイトルの推計結果が示されました。しかし、2025年現在、すでにその期間に差しかかっていますが、相変わらず人手不足は続いています。
歴史を振り返ると、「産業革命」のときも、「情報革命」のときも、同じような議論があったようです。当然、代替されてなくなった仕事もたくさんありましたが、それ以上に新しいタイプの仕事が次々と生まれてくるというのが、これまで起こってきたことです。
そして現在は、「第四次産業革命」の最中と言われていますが、2020年の「世界経済フォーラム(ダボス会議)」の場では、「第四次情報革命によって、数年で8500万件の仕事が消失する一方で、9700万件の新たな仕事が生まれる」という予測も発表されています。
実際のコンサルティングの仕事においても、ChatGPTなどの生成AIツールを使っていると、自分がアナリストだった頃に行っていたリサーチ業務の大半は、すでに代替されてしまっていると感じます。
つまり、今のアナリストは、「生成AI」のアウトプットを発射台としながら、そこにオリジナルの価値を付加することが求められているということです。
また、定量分析を行う際も、昔はエクセルでピボットテーブルを操作していましたが、今では「AI(機械学習モデル)」が組み込まれたAlteryxなどを使いこなすことで、分析のスピードや精度を格段に向上させることができます。
このように、コンサルティングの仕事も時代とともに進化を続けており、今後も様々な「AI」が、コンサルタントの生産性を底上げしていくと予想されます。アクセンチュアのサービス名を借りるなら、〝AI POWERED〟されたコンサルタントが、次の時代のスタンダードになっていくのかもしれません。
ちなみに、「AI」という言葉は、バズワード的に使われることも多く、それを象徴的に表すものとして、「AI効果」と呼ばれる現象があります。
AI効果とは、かつて「AI」と呼ばれていたものも、実用化され日常生活に浸透すると、誰も「AI」と呼ばなくなるというパラドックスのことを指します。つまり、「AI」という言葉の指し示す範囲は時代とともに移ろい、その時点の「フロンティア」にあり、まだ世の中に広く浸透していないものが「AI」と呼ばれるということです。
この「AI」という言葉の特性には、「コンサルティング」とのシンパシーを感じます。「コンサルティング」も同じく、支援の手法や内容は時代とともに移ろい、ビジネス界の「フロンティア」にあり、まだ世の中に広く浸透していないものを取り扱っています。
「AI」も、「コンサルティング」も、何をやっているのかを一言で説明するのは難しく、それだけで本を1冊書けてしまいますが、その背景には実はこうした事情があるのです。
コンサルティングとAIが共存する未来
コンサルティングの仕事の中身が日々進化していく中で、ファームという「器」そのものや、そこでの「稼ぎ方(ビジネスモデル)」は、今後どのように変わっていくのでしょうか。ここで改めて、コンサルティング業界の中心にいる、総合ファームと戦略ファームの規模拡大に向けた動きに目を向けていきます。
最初は、「人材獲得」の観点から。
先ほど、コンサルティング業界は中途市場において、引き続き人気を博していると紹介しました。そして、その「援軍」となっているのが、転職エージェントになります。
そこでは、「キャリアアドバイザー」や「キャリアコンサルタント」と呼ばれる人たちが、求職者に対してコンサルティング業界の魅力を代弁し、転職の意思決定を後押ししてくれています。
転職エージェントが、コンサルティング業界を積極的に薦めるのには理由があります。それは、コンサルティングファームの年収が高いからです。転職エージェントの報酬は、「年収×手数料率」で決まるので、より年収が高い企業に転職した方が、取り分としては大きくなります。つまり、転職エージェントにはコンサルティング業界に人材を送り込むインセンティブがあるということです。
また、この報酬体系は、コンサルティング業界内の人材獲得競争に、「火に油を注ぐ」ことにもつながっています。違法な「人材の引き抜き合戦」が行われたこともありましたが、合法的な人材獲得合戦は「手数料率」で行われています。
かつて、手数料率の相場は30~40%でしたが、最近では100%を超える条件を提示するファームも珍しくはありません。要するに、転職エージェントを介して、「札束」での人材の取り合いが繰り広げられており、「富めるものがますます富む」構造になっているのです。別の見方をすると、各ファームとも、なりふり構わず大枚をはたくほど、人材を欲しているということです。
続いて、「案件獲得」の観点から。
お金を積んで獲得した人材を、しっかり稼働させることができなければ、売上拡大にはつながりません。各ファームとも、人員数を増加させている中で、それらの人材を安定的に稼働させるためには、「ビッグクライアント(政府や大企業)」とがっぷり四つに組んで仕事をするという結論に達します。
このあたりは総合ファームに一日の長があり、「単発のプロジェクト(成果物)」ベースの受注のみならず、「長期契約の業務代行(人材派遣)」的な仕事を受注して、稼働を安定させています。
その最たる例が、アクセンチュアが推進する「JV戦略」です。ビッグクライアントとの共同出資で機能子会社を設立し、親会社の業務プロセス変革や、その後のBPO業務を一括で受託しています。
BCGデジタルベンチャーズのJV(新規事業による企業価値創出を狙う)とは異なり、アクセンチュアの場合は出資比率を20%以下にとどめており、ビッグクライアント周辺の案件を半永久的に受注することが狙いと推察されます。
ビッグクライアント(およびその合弁会社)の例としては、ユニクロ(ウェアレクス)、KDDI(ARISE Analytics)、資生堂(資生堂インタラクティブビューティー)、コカ・コーラ ボトラーズジャパン(ネオアーク)などがあります。
最後に、「売上拡大」の観点から。
ここまで紹介した話は、「人工(フィー)モデル」を前提とした規模拡大についてでした。しかし、このモデルでは「人」の頭数のかけ算以上には売上が増えていかないので、どこまでいっても「スケール(一気に拡大)」しないビジネスのままです。
この「効率の悪さ」を解消するべく、戦略ファーム各社が、「成果報酬型ビジネス」にチャレンジしています。
人的リソースに依存しないビジネスモデルとして、「人間の脳」ではなく、「人工知能(AI)」に働いてもらうという方向性も考えられます。カスタムAIの開発を行うLab oro.AIにPER100倍の株価がついているのはこういった期待の表れとも見てとれます。
大手のコンサルティングファームも、当然のようにAI領域に大規模な投資を行っています。例えば、総合ファーム(BIG 4+アクセンチュア)はいずれも、AI領域に今後10億ドル以上を投資していく意向を表明しています。
すでに、PwCの「ChatPwC」やKPMGの「KymChat」、あるいは、マッキンゼーの「Lilli」など、ファーム内に蓄積されている知見やノウハウを機械学習したカスタムAIもリリースされています。
これらのサービスは、現時点ではファーム内でのサービス利用にとどまっており、当面はコンサルタント向けの〝AIパワード〟ツールとしての役割を果たすと想定されますが、将来的にはクライアント向けにもサービスを提供していくことも考えられます。
そうなった場合、クライアントとのインターフェースは「人」ではなく「AI」となり、人的リソースに制約を受けない「スケール」するビジネスモデルが、ついに実現することになるかもしれません。
終身雇用が崩れるなかで、コンサルティングファームはキャリアの選択肢として支持を集めています。一方で各社は、AIの活用や成果報酬型のモデルを通じて、人手に依存しない稼ぎ方への転換を進めています。

A.T.カーニー・BCG出身の藤熊浩平氏による『コンサルティングビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)を、コンサル転職をご検討中の方に無料でお届けしています。業界の歴史から主要ファーム、プロジェクトの進め方、キャリアまでを1冊で押さえられます。本記事はその一部を抜粋したものです。
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